肥満は重度の体脂肪過多である。合併症には,心血管疾患,糖尿病,多数の癌,胆石症,脂肪肝および肝硬変,変形性関節症,心理的な疾患,若年死がある。診断は体格指数(BMI―身長と体重から算出)およびウエスト周囲径に基づいて下す。血圧,空腹時血糖および脂質値を測定する。治療は,運動,食生活と行動の見直しのほか,ときに薬剤または手術が用いられる。
米国では肥満の有病率が高く,さらに上昇中である。年齢調整有病率は,1988年から1994年には22.9%であったが,1999年から2000年には30.5%に増大している。同時期に,過体重(肥満より重度の低い体脂肪過多)の割合は55.9%から64.5%に上昇した。55歳での有病率は,20歳のときの2倍以上である。肥満は,社会経済的地位の低い女性では,地位の高い女性の2倍である。黒人男性と白人男性の有病率には有意な差がみられないが,黒人女性では,白人女性よりも有病率が高い。40歳以上の黒人女性の半数以上が肥満であり,80%超が過体重である。肥満およびその合併症は,毎年300,000人にも及ぶ若年死を引き起こしており,死亡原因としては喫煙に次ぐものである。
病因
肥満のほぼ全症例が,慢性的な過食に運動不足と遺伝的素因が加わったことによって起きるものである。遺伝,代謝および他の決定因子が果たす役割は通常,小さなものである。
遺伝的決定因子
BMIの遺伝率は約33%である。視床下部と消化管の一部が食物摂取を調節するために用いる多数のシグナル伝達分子および受容体に遺伝因子が影響を及ぼすことがある(肥満および代謝症候群: 摂食調節経路を参照 囲み解説 1: )。肥満はまれに,食物摂取を調節するペプチド(例,レプチン)の濃度異常またはその受容体の異常(例,メラノコルチン-4受容体)によって生じることがある。また,遺伝因子により,BMR(基礎代謝率),食事誘導性熱産生,不随意運動による熱産生などのエネルギー消費も調節している。遺伝因子が,体脂肪量よりも体脂肪の分布,とりわけ内臓脂肪の分布(肥満および代謝症候群: 代謝症候群を参照 )の決定に,重要な役割を果たしている可能性がある。
環境的決定因子
過体重は,代謝速度の遅さよりもカロリーの過剰摂取が原因となることの方がはるかに多い。脂肪や精製炭水化物を多量に含む食事では体重が増大する一方であり,新鮮な果物や野菜,繊維質および複合炭水化物の多い食事では,体重の増加が最小限に抑えられる。座ってばかりの生活スタイルは,体重を増加させる。
調節的決定因子
母体の肥満,母体の喫煙,子宮内の発育制限,薬剤のほか,まれではあるが脳の損傷および内分泌疾患により,体重調節が乱れることがある。女性の約15%は,妊娠のたびに体重が20lb(9.1kg)増加したままとなる。乳児期または小児期の肥満では,その後の減量がいっそう難しい。
コルチコステロイド,リチウム,従来の抗うつ薬(三環系抗うつ薬,四環系抗うつ薬およびモノアミン酸化酵素阻害薬[MAOI]),ベンゾジアゼピン,抗精神病薬などの薬剤は,しばしば体重を増加させる。
まれに,腫瘍(特に頭蓋咽頭腫)または感染症(特に視床下部が侵された場合)による脳損傷が,カロリーの過剰消費を促すことがある。膵腫瘍による高インスリン血症が,体重増加をもたらすことがある。クッシング症候群による副腎皮質機能亢進症では,もっぱら腹部肥満が生じる。甲状腺機能低下症が大幅な体重増加の原因になることはまれである。
心理的および行動的決定因子
心理的および行動的因子は,主に2つの病的な食事パターンに限られると考えられている:むちゃ食い障害および夜食症候群。さほど極端ではないものの摂食異常と分類する以外にはない類似のパターンが,さらに多数の人々に過剰な体重増加をもたらす原因になっていると思われる。
むちゃ食い障害はむちゃ食いの最中の自制心のなさと後悔を自覚しながらも,短時間に大量の食物を摂取するものである(気分障害を参照 )。この障害には,嘔吐などの代償行為を含まない。有病率は男女とも1〜3%であり,減量プログラムに参加する人の10〜20%である。肥満度は通常,重度であり,体重の大幅な増減を頻繁に繰り返し,著明な心理的障害がみられる。
夜食症候群は,朝の食欲不振,晩の過食および不眠がみられる。夕食の後に,1日摂取量の少なくとも25〜50%を摂取する。重度肥満の治療を求める人の約10%に,この疾患がみられる。しかし,他の多くの人でも,夜間の摂食が過度の体重増加の原因になっている。
合併症
ジョージア州のヨウ素欠乏症の予防
インスリン抵抗性,異脂肪血症および高血圧が生じ,やがては糖尿病および冠動脈疾患を来しやすい。合併症は脂肪が腹部に蓄積するとさらに起こりやすくなる。肥満は,肝硬変を引き起こすこともある非アルコール性脂肪肝の危険因子でもある。
頸部の過剰脂肪が睡眠時に気道を圧迫すると,閉塞性睡眠時無呼吸が生じることがある。呼吸が短時間停止し,その回数は一晩に数百回にも及ぶ(睡眠時無呼吸: 閉塞性睡眠時無呼吸を参照 )。この疾患は,しばしば診断されず,大きな鼾と日中の異常な眠気をもたらしうる。
大学の禁煙情報板
肥満による低換気症候群(ピックウィック症候群)では,呼吸障害により,高炭酸ガス血症,呼吸刺激のCO2に対する感受性低下,低酸素症,肺性心が起きるほか,若年死のリスクが生じる。この症候群は単独に,または閉塞性睡眠時無呼吸に続発して起こる。
特に荷重関節に生じる変形性関節症が,肥満から生じることがある。皮膚の異常がよくみられるのは,汗と皮膚の分泌物が増大して皮膚の厚い襞部分に閉じ込められることにより,真菌や細菌を成長させ,特に間擦部の感染が起こりやすくなるためである。おそらく過体重は,胆石症,多嚢胞性卵巣症候群,痛風,深部静脈血栓症,肺塞栓症,および多くの癌の素因を与えるものである。
肥満は,偏見や差別のほか,よくない身体イメージや自尊心の低下の結果,社会的,経済的および心理的な問題をもたらすことになる。
診断
成人では,体重(kg)を身長(m)2で割った値であるBMIによって,過体重または肥満を判断する。25 kg/m2〜29.9 kg/m2のBMIが過体重を示し,30 kg/m2以上が肥満を示す( 肥満および代謝症候群: 体格指数(BMI)表 1: 参照)。BMIは年齢および人種別であり,小児および高齢者では使用が限定される。小児および青年では,CDC(米国疾病コントロールセンター)の年齢別および性別成長曲線に基づき,BMI95パーセンタイル以上を過体重とする。アジア人,日本人および多数の先住民族は過体重のカットオフ値が低い(23kg/m2)。過剰な体脂肪がなく,筋肉量が大きい場合,BMIが高くなることがある。
表 1 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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白人男性では,ウエスト周囲径93cm超(36.3インチ超),特に101cm超(39.4インチ超),白人女性では,79cm超(30.8インチ超),特に87cm超(33.9インチ超)が肥満の合併症の危険因子である。
身体組成分析
肥満の診断では,身体組成—体脂肪と筋肉の割合—も考慮する。体脂肪の割合は,皮下脂肪厚を測定するか上腕筋面積を求めることにより算出できる(低栄養: 身体診察を参照 )。適切な体脂肪の割合は,患者の人口統計上の集団に基づいている。女性および高齢者では,値が高くなる。
皮下脂肪厚により体脂肪蓄積量を算出する。平均的に,脂肪組織の約50%が皮下にある。高齢者では,年齢による萎縮性変化のため,この数値は様々である。特殊なキャリパーを用いて,肩甲下,後部の上腕三頭筋(上腕三頭筋部皮下脂肪厚[TSF]),胸部下部,腸骨および腹部の部位の皮下脂肪厚(皮膚および皮下脂肪の2層からなる)を測定する。TSFは測定しやすく,通常,浮腫がみられないため,TSFだけの測定だけでもよい。健常男性では,TSFの典型的な範囲は0.5〜2.5cm(平均1.2cm)であり,健常女性では,1.2〜3.4cm(平均2.0cm)である。TSFは年齢により変化する。高齢者では,肩甲下の部位の方が信頼性が高い。
生体電気インピーダンス法(BIA)により,身体脂肪を簡単かつ非侵襲的に測定できる。BIA法は体内総水分量の割合を直接測定し,間接的に体脂肪の割合を求めるものである。BIA法は,健康な人および体内総水分量の割合が変化しない少数の慢性疾患(例,中等度の肥満,糖尿病)で,最も信頼性が高い。植え込み型除細動器の使用者にBIA法の測定を実施した場合のリスクの有無は不明である。
黄熱病は、オーストラリアを形成し、
水中(静水)体重測定は,体脂肪の割合を測定する最も正確な方法である。この方法は,高価で時間もかかるため,臨床よりも研究に用いられることが多い。水中に入って正確に体重測定するためには,その前に十分息を吐き出しておかねばならない。
CT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像)および二重エネルギーX線吸収法(DEXA)などの画像診断法でも,体脂肪の割合と分布を測定できるが,通常は,研究目的に限って用いられる。
その他の検査
肥満患者には,Epworth Sleepiness Scale(昼間の眠気指数)のような指標を用いて睡眠時無呼吸症候群の検査を実施しなければならない。呼吸窮迫指数が6を超える場合,睡眠ポリグラフ検査を実施する。空腹時血糖および血漿脂質は,肥満患者においてルーチンに測定すべきである。
予防
減量治療の上でレビュー
一般的な健康状態を改善する運動,健康によい食事および行動の修正が推奨されている。そのような心がけによって,健常な人でも体重をコントロールでき,肥満および糖尿病の予防に役立つ。また,運動は心血管障害のリスクを減少させ,食物繊維は大腸癌および心血管疾患のリスクを減少させる。
予後
肥満は治療しないと進行しやすい。ほとんどの人が減量後5年以内に,治療前の体重に戻る。合併症の確率および重症度は,肥満の重症度のほか,性別を問わずウエスト周囲径に比例する。男性の方が死亡率および合併症の罹患率が高いが,これはおそらく腹部の脂肪過多が大きいことによる。しかし,肥満治療を受けている人の大半は女性であり,女性の方が合併症を発症しにくい。
治療
体重減少は5〜10%でも,健康状態を改善させ,寿命を伸ばし,合併症のリスクを減少させると思われる。閉塞性無呼吸症候群では,さらに大幅な減量が必要である。
減量および体重の維持には,医療担当者,仲間,家族の支援のほか,様々な体系的プログラムが有用である。
減量には,通常,行動療法を取り入れた食事の見直しと身体活動の増強が必要である。薬剤または手術が必要なこともある。
食事
低脂肪で健康によい食事,適度のカロリー制限(1000〜1400kcal/日)および炭水化物を一部蛋白で代替することが,長期的に最善の結果をもたらすと思われる。精製炭水化物および加工食品の代わりに新鮮な果物と野菜および繊維質を,ソフトドリンクやジュースの代わりに水を摂取するべきである。グリセミック指数の低い食品(栄養:一般的考察: 食品のグリセミック指数を参照 表 1: )および魚油または植物由来の一価不飽和脂肪(例,オリーブ油)は,心血管疾患および糖尿病のリスクを減少させる。
不規則な食習慣を必要とする食事は避けるべきである。そのような食事は持続しにくく,以前の不健康な食習慣に戻ると体重は増加する。1200kcal/日未満のカロリー制限は持続できないが,短期間で急速に減量するためにそのような食事が必要となることがある(例,手術前または閉塞性無呼吸症候群の場合)。800kcal未満の食事がより大幅な減量をもたらすことはなく,耐えることも難しくなる。
身体活動
運動はエネルギー消費量,基礎代謝率および食事誘導性熱産生を上昇させる。また,運動は,カロリー必要量にきちんと応じて食欲を調節するようである。利点としてはこのほか,インスリン感受性の増大,血漿脂質プロファイルの改善,血圧低下,有酸素作業能の向上および心理的安寧感の増大がある。強化(抵抗)運動は筋肉量を増大させる。筋肉組織は,脂肪組織よりも安静時のカロリー燃焼が大きく,筋肉量の増大により,基礎代謝率が永続的に上昇することになる。面白く楽しい運動の方が,持続しやすい。
行動療法
行動療法は食事習慣と身体活動レベルの改善を目的とする。健全な食事を優先すべきで,厳しい食事制限は推奨されない。一般的な方法として,高カロリーの間食を避ける,外食するときには健康によい食事を選ぶ,ゆっくり食べる,活動的でない趣味のかわりに身体を動かす趣味をもつなどがある。社会的な支援,認知療法およびストレスマネージメントは有用であり,長期の減量プログラムで通常みられる逆戻り状態のときには,特に助けとなる。
薬物
BMIが30を超えるか,あるいはBMIが27を超えかつ合併症(例,高血圧,インスリン抵抗性)を伴う場合,薬物療法が適応となる。薬物治療による減量のほとんどは中等度で(5〜10%),最初の6カ月間にみられる;したがって,減量の維持に薬物を用いる方が有用である。体重管理のため全身性作用薬の投与を受けている閉経前の女性は,避妊法を用いなければならない。
シブトラミンは薬剤によって減量させる中枢作用性食欲抑制薬である。通常の開始用量は,10mg,経口,1日1回とし,用量は5mgに減少または15mgに増大できる。よくみられる副作用は,頭痛,口渇,不眠および便秘であり,最もよくみられる重篤な副作用は高血圧である。心血管障害,特に管理不良の高血圧症には禁忌である。
オルリスタットは腸リパーゼを抑制するため,脂肪の吸収を減少させ,血糖および血中脂質を改善させる。オルリスタットは吸収されないため,全身への影響はまれである。放屁,脂肪便および下痢がよくみられるが,治療2年目には消散することが多い。脂肪分を含む食事とともに,1回量120mg,1日3回の経口投与とする。オルリスタット服用の少なくとも2時間前か2時間後に,ビタミン補給剤を服用しなければならない。吸収不全および胆汁うっ滞は禁忌であり,過敏性腸症候群および他の消化管疾患では,オルリスタットを受けつけにくいことがある。
一般医薬品(OTC)の減量薬は推奨されない。OTCの中にもわずかに効果がみられるものもあるが(例,カフェイン,エフェドリン,ガラナ,フェニルプロパノールアミン),副作用の方が利点よりも大きい。有効であることが明らかにされておらず,副作用の可能性があるものもある(例,ブリンドルベリー,l-カルニチン,キトサン,ペクチン,グレープシードエキス,トチノキ,ピコリン酸クロム,コンブ,イチョウ)。
手術
重度の肥満患者(BMI が40超)または重篤な合併症を伴う患者で,運動,食事および行動療法が有効ではない場合は,手術が適応とされる。減量幅(通常40〜60kg)は肥満の重症度に比例するが,減量は長期間維持されるようだ。ルー-エヌ-ワイ胃バイパス術は最も有効である。腹腔鏡下で調整可能な胃バンドを取り付け,後の取り外しも可能な胃緊縛法も有効である。
手術後の減量は初めは急速に進み,2年間で次第にゆっくりと減量していく。肥満の合併症の多くが消散し,気分,自尊心,身体イメージ,活動レベルが改善し,人間関係および仕事の効率も増す。熟練した外科医による手術であれば,手術前と手術後の死亡率は通常,1%未満であり,手術による合併症は10%未満である。慢性合併症は手技により異なるが,嘔吐,下痢およびダンピング症候群がみられることがある(胃炎および消化性潰瘍: 手術を参照 )。ビタミンおよび鉄欠乏症が起こることがあるが,食事が栄養的にバランスのとれたものであり,補給剤を服用していれば,まれである。
特別な集団
肥満は,小児および高齢者では特に問題となる。
小児
小児肥満は,成人の肥満にもまして問題が多い。肥満児では,成人よりも長期間肥満を続けることになるため,合併症がいっそう起こりやすい。小児及び青年の約20〜25%が過体重または肥満である。乳児肥満の危険因子は,低出生体重,母体の肥満,糖尿病および喫煙である。思春期以降,食物摂取が増大し,男子では,過剰なカロリーは蛋白蓄積の増大に用いられるが,女子では,脂肪蓄積が増大する。
肥満児では,初期に,心理的な合併症および筋骨格系の合併症が現れることがある。呼吸器系,代謝性および肝の合併症が生じることもある。筋骨格系の合併症には,大腿骨頭すべり症など,小児にしか起こらないものもある。心血管系合併症,呼吸器系合併症およびその他の肥満に関係する合併症のリスクは,成人期に増大する。
肥満が成人期にまで継続するリスクは,肥満が乳児期に発症した場合には低く,6カ月から5歳までに発症した場合は25%,6歳以降であれば50%超であり,成人期に発症し,両親のいずれかが肥満であれば,80%超である。
小児では,減量よりも体重をそれ以上増やさないことが,適正な目標である。食事を見直し,身体活動を増やす必要がある。体系的な運動プログラムよりも,一般的な活動や遊びを増やす方が効果的であることが多い。小児期に身体的な活動に参加することにより,一生,活動的な生活を送る可能性を高めることになる。薬物および手術は避けられているが,肥満の合併症が生命にかかわるものであれば,適応の根拠となる。
小児の体重を管理し肥満を避けるための対策は,国民の健康にとって最も有益であると思われる。家族,学校およびプライマリーケアのプログラムで,このような対策を実行すべきである。
高齢者
加齢が進むと,身体的に活動しなくなることが主な原因となって,体脂肪が増大し,腹部に再分布し,筋肉量が減少する。合併症のリスクは,体脂肪分布(大部分は腹部脂肪分布とともに増大),肥満歴および関連する筋減少症によって決まる。高齢者では,BMIよりもウエスト周囲径の増大の方が,罹患率および死亡率を正しく予測する。高齢者では,BMIが低下すると死亡リスクが増大するため,可動性が制限されていない限り,食事を制限するよりも身体活動を増やす方が望ましい。身体活動は筋力,持久力および全体的な健康状態をも改善する。活動には強化運動と持久力運動がある。高齢者では,減量薬の使用の評価試験は実施されておらず,また,手術は避けた方がよい。
最終改訂月 2005年11月
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